俳句『麦の会』on HatenaBlog

『麦の会』俳句結社。俳句雑誌『麦』を毎月発刊。

麦「新人賞」R2年度~R4年度

第39回(令和4年度)『麦』新人賞(2名同時受賞)
混沌のなか    徳山 優子
 
試着しきれぬ自我置いてくる花野
ぼうたんの嘘は真へ砂のくに
直角な手持ちの時間蝸牛
剥がせない付箋は残り年の暮
真夜中に放電するや曼珠沙華
東京にいくつもの島流れ星
薔薇の散る夢追い人ではいられず
木の実落つひとつは心のさざなみ
さくさくと梨剥く紙面接種率
豆菓子を頬張りマスクかけ直す
街には電飾みつからぬ手袋
カブスする腕の角度や降誕祭
ささくれ立った指に春の湿りけり
春の雪スイスから来る義勇兵
川に瓦礫ウクライナに蝌蚪生まれ
うすらいの下に瞬く未来都市
半島に教会隠れ秋深む 
くちなわに寄りて少年の円周
網戸して徐々に守りに入ってゆく
稜線に戦火空には星月夜
 
 
人ならば     武内 杉菜
 
春支度羊水たたえ大白磁
くねりても仮名に骨あり良寛
四十億年の流れどくどく孕鹿
蚕時雨や地球の自転音もなく
人ならば夏至の列石丸くする
ほぞ深き箱開かぬまま長き梅雨
編集と校正の翳赤蜻蛉
鬼百合やドットの増産止まらない
絹の道茶の道消えて蝶の道
水準器歪んでおりぬ八月は
黒揚羽なぞなぞ仕掛け奥都城
夕顔の無数の無言離村の日
寂寥の同心円や蜘蛛の糸
半島のちぎれてゆくよ鰯雲
一木一草命の掟や二重虹
宇宙ゴミ熊手で集め焚火する
ふるふると民話の絵解き狼と
わたくしの枯野は無風メメントモリ
引鶴のショパンを弾くや郷破れ
 
 
第38回(令和3年度)『麦』新人賞

壊れた公園     尾内以太
 
ひいらぎの花列島に雲ひとつ
から風や骨整って進む魚
磨かれた靴先に載る春の月
畦塗りの手形へ手形重なりぬ
別件の顔をして来る新社員
青蝶の湧けばからだの水騒ぐ
太陽を空に戻して黄蝶の香
航路みな交わらずゆく蝶の昼
修司忌や風を動かす大風車
捩り尽くされて捩花から雫
海岸の跡地へ梅雨の星降れり
釣針の浮き出るフォント梅雨湿り
梅雨明けのオカリナの穴より微風
虹を見て口内炎を押し戻す
星よりもロケット多し朴の花
恋愛は勤労に似て百合の花
国境は灯のない線よ星祭
水澄んで地球から出る魚たち
辷り台に脚を忘れた虫の闇
矢印の壊れるままに芒原

 

第37回(令和2年度)『麦』新人賞

 
コッホ曲線   野川 京
 
粗塩のひかりの尖り春立ちぬ
啼き声のCDを聴く雨水かな
四段目にくまモンのいる雛飾
風光る太郎は太郎という仕事
めばる煮る尾鰭じわじわ立ってくる
傘させば薺の花がよく見える
春深し一樹の嗚咽つづきけり
生きているふり鞦韆に腰かけて
コッホ曲線虹の匂いを知っている
はざくらのやまてらてらとなまなまと
二階からラムネになって降りてくる
妹はいつもいもうと浮人形
夏川の上いつだって大空
人はみなだれかの宝銀河濃し 
爽涼やボルダリングの壁に色
秋夕焼とピーマン残る白い皿
短日の梢尊きまでに燃ゆ
ラグビーやハレルヤルーヤパンの耳
冬ざれの耳たぶはみなしごのかたち
チバニアン小寒の水足しており