俳句『麦の会』on HatenaBlog

『麦の会』俳句結社。俳句雑誌『麦』を毎月発刊。

「収穫祭」第1位作品(H29年度~R1年度)

令和1年度(800号記念)収穫祭 第1位

夕焼けを追って    中山宙虫

カーテンを外した部屋に春夕焼け
昨夜から雨が重たい黄水仙
エンディングノートに青と書く辛夷
虐待をうじゃうじゃ邪推おたまじゃくし
春落葉と空と水力発電
さえずりの舗道で友が消えてゆく
監視カメラが動き浅蜊の砂を抜く
揚雲雀落ちてひさしいピーター・パン
春野から風が連れ去る若者たち
三つ葉浮く椀にあの夜のエルトン•ジョン
笹舟を流し筑豊芹の花
夏銀河骨打ち上げる波の音
アイリスの風に陰口ばかりのる
ぼた山に帰る鳥たち夕凪いで
夕焼けの奴は九重を想ったか
沢蟹の石をめくって切支丹
浜木綿の風にピノキオ横たえる
残業のパソコン光る蝙蝠や
鳴いたのは岩魚と信じられる森
禊萩の日暮れ空へと父帰る
花葛までふたりできっとたどり着く
憧れはヴィオロンだった櫨紅葉
秋夕焼け除籍謄本取り寄せる
ホロコーストの足音ついてくる夜霧
角砂糖積んで崩して夜が長い
海からの雨の元旦ナッツ噛む
フライ返し殺人事件石蕗の花
吹雪く夜の「君の瞳に恋してる」
ホラー映画を早送りして葱刻む
冬夕焼けまで待てと柩に手をかける
 
 
平成30年度収穫祭第1位

石が鳴く     田中正恵
 
福豆の零れる鬼の更衣室
春一番埴輪の将軍整列す
流されて夫婦で目差す雛浄土
春寒や阿修羅の目尻濡れている
啓蟄や十三センチの布の靴
野火走る昂る男の声五体
桜咲く契約書のある甲と乙
師の一句磯巾着の乾びたる
万緑や介護ホームのわらべ唄
町薄暑口紅拭う歯科の椅子
青蜥蜴しんと地を這う風湿る
白南風やみな緑なき沖の船
蟻が蟻咥えて一列無言なり
空蝉を握り潰してみたい時
炎昼の東京で買う能登の塩
散骨はいや八月の海ことに
深海か胎内かともに蚊帳に寝て
おうおうと硬派の男大花火
野分あと般若を飾る尼法師
木の実落つ背中が笑う車椅子
単調なくらし柘榴の赤い口
蓑半分剥がれて蓑虫父を待つ
石を蹴り日暮れ遅らす冬帽子
大枯野道祖神前喫煙所
鮟鱇の外された口雲が行く
寒落暉知らずともよし夕餉時
補聴器に紛れ込んでる雪の音
遠いねと鯨の母子寒北斗
津波後の石鳴くごとき寒さかな
どんど焼き恭々しきもの燃やされて
 
 
平成29年度収穫祭第1位


悪運     中山宙虫

開運の梅らしいけど白ばかり
春月の音立てひとり歩く村
金さんの兄さんが邪魔鳥雲に
霊媒が敬語で座る木瓜の花
網干し男が白くなる春昼
たんぽぽの絮が落ちゆくまぶしい村
ニセアカシアのぞわぞわ路地の銃砲店
ゆきやなぎ宇宙人にも足がある
毛虫の背をチャペルの鐘がざわつかす
緑の裏を見せてはならぬ救急車
湖に波立てて裸足のかぐや姫
青梅雨や防災無線になじみの声
宅配ピザを待って蚊取りの煙立つ
鶏の影のび村は夕焼ける
夕凪から始まる夜の昆虫記
運勢があいまい日傘くるくると
八月の海にペン胼胝やわらかい
地震の夢覚めてメロンが濡れている
水に影落とす映画のあとの月
とうきび畑抜けて女の貌になる
花蕎麦のこだまを風がさらう村
悲運を語る町は銀河をなくしそう
漁灯くっきり文字を書けない秋の風
稜線へつづく涙腺鳥渡る
影が僕を花野に置いて消えてった
星ひとつ増えて冬眠ひとつ減り
冬の雨ボウリング場に夜八時
土埃の島のみかんが熟れてゆく
開かずの扉開いてふくろう鳴いている
悪運はたやすく尽きる樹氷